こんにちは、毎日頭痛外来をしている福岡県糟屋郡新宮町の「しろうず脳神経外科」です。
疲れた時や、運動した後などにエナジードリンクを飲んだことありませんか?
1本のみならず2-3本一気に飲む方もいらっしゃると思います。時々ならばよいのですが、頻度が多いと危険性があります。
今回はエナジードリンクの危険性について詳しく見ていきましょう。
脳の働きに作用する神経伝達物質
我々の脳の中では、細胞から細胞へ情報が伝えられることで、身体の機能が働きます。
この細胞から細胞へと情報をつなぐ部位をシナプスと言い、シナプスの間を行ったり来たりするのが神経伝達物質となります。
神経伝達物質は促進に働くものと、抑制に働くものがあります。
約20種類くらいあるとされており、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン、GABA、グルタミン酸、ヒスタミン、オレキシンなどが挙げられます。
ノルアドレナリン
ノルアドレナリンはドーパミンの代謝産物となります。
ノルアドレナリンは副腎皮質で代謝変化してアドレナリンとなります。
そのため、ノルアドレナリンとドーパミンは非常に関連がある神経伝達物質といわれています。
ノルアドレナリンは、脳の覚醒を促して高い機能を発揮するための神経伝達物質とされています。
ノルアドレナリン量が過剰になると、不安や恐怖、焦燥や取り乱す状態が出現し、代謝物であるアドレナリンも増えることで、頻脈や冷汗などが出現し、その不安や焦燥は助長されることになります。
逆にノルアドレナリン量が過少になると、覚醒度が低下し、睡眠障害が生じます。
多くの場合、レム睡眠相が変化し、入眠直後にレム睡眠が発現するため熟睡が妨げられることになります。
ドーパミン
ドーパミンのシナプス間隙への過剰な放出が起きることで、実際には存在しない刺激があったかのように伝達が生じ、その信号を受け取った脳の各部は存在を感じてしまいます。
この信号を受け取った部分が反応することによって、幻聴や幻視などの幻覚や妄想といった症状を作り出してしまいます。
逆にドーパミンの放出量が少なくなると、意欲障害や認知機能障害などの症状が出現します。
セロトニン
セロトニンは、トリプトファンという必須アミノ酸から合成されます。
必須アミノ酸は、体内では大量に作り出すことができません。そのため、食物などから大半を摂取しなければならないのです。
トリプトファンは、一般的にはタンパク質を多く含む食材に多く含まれており、肉や魚といった動物性タンパク質や豆類などの食物性タンパク質に多く含まれています。
セロトニンは、他の神経伝達物質によって行われる精神活動を監視して、不安定な状態を補正して精神状態の安定化を図ります。
セロトニンの量が不足すると、すべての機能が低下することになり、身体機能面では、体温調節不全、血管の収縮機能の変化による血圧変動や血管性の頭痛、腸管蠕動不全による下痢や便秘などの症状となって現れます。
精神活動の変化としては、抑うつ気分、不安、脅迫観念、パニック発作、睡眠障害、食欲の異常などを引き起こします。
GABA
神経伝達物質のGABAは、γアミノ酪酸の略称です。
GABAの神経伝達物質としての機能は、興奮に対する抑制と言われています。
脳内で興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸から脱炭酸酵素によりつくられるのですが、グルタミン酸とGABAの機能は真逆となります。このような生合成経路にすることで神経の興奮と抑制のバランスを取っているのです。
GABAは役目を終えると分解酵素によって、他のアミノ酸を効率よく合成する回路に取り込まれて新しいアミノ酸へと姿を変えます。
外的な過剰な刺激を察知すると、脳の大脳辺縁系においてストレス反応系神経ネットワークの興奮が高まります。さらに刺激量が増すか、刺激継続が一定以上の時間を超えると、過剰な神経興奮反応を抑えるという安全機構が備わっています。
その生体機能の防御機構は、抑制系神経といわれており、その神経系等を神経伝達物質であるGABAが調節しています。
オレキシン
オレキシン神経は視床下部に存在し、そこから脳と脊髄のほとんどの領域に軸索を投射しています。
オレキシンが欠損すると、覚醒を維持できずに場所や時間を選ばずに眠ってしまうナルコレプシーという睡眠障害になってしまいます。
また、オレキシンが欠損すると痛みを感じやすくなり、普段は痛みとして感じないような刺激でも痛く感じるようになります。
逆にオレキシンが活性化すると、痛みを感じにくくなるために、痛みを感じるような刺激でも痛さを感じないようになります。
スポーツなどの運動活動時や興奮時には、オレキシンが活性化していると考えられ、痛みを感じにくくなりますが、落ち着いてくると痛みを感じ始めます。
エナジードリンクの危険性
エナジードリンクで覚醒するメカニズム
カフェインは、脳内で眠気を作り出すアデノシンという物質をブロックします。
これにより中枢神経を覚醒させることにより、集中力の向上、眠気、倦怠感の抑制を引き起こすのです。
しかし、これは疲労が回復していくわけではなく、一時的に自分のパフォーマンスを上げている状態で、過剰に摂取してしまうとカフェイン中毒になってしまいます。
エナジードリンクには、1本あたり約80-140mgのカフェインが含まれています。
コーヒー1杯あたり80-90mgのカフェインが含まれていることと比較すると、そのコーヒーよりも多く含まれていることがわかります。
カナダ保健省では健常な成人は最大400mg/日(コーヒーをマグカップ(237ml入り)で約3杯)までとすると推奨されています。
そのため、3本以上飲むとカフェイン中毒になる可能性が高くなります。
カフェイン中毒
カフェイン中毒とは、一度にカフェインを過剰に摂取すると急性中毒が起こり、摂取することをやめられなくなってしまうことです。
初期の中毒症状は、精神症状では緊張、知覚過敏、多弁、不安、焦燥感、身体症状では胃痛、胸痛、吐き気、心拍数増加、呼吸促迫などが挙げられます。
重度となってくると、精神症状では精神錯乱、妄想、幻覚、パニック発作、衝動性、身体症状ではけいれん、頭痛、過呼吸などが挙げられます。
1グラム程度の摂取で中毒症状が人によって出始め、2グラムの摂取で多くの人に中毒症状が出てきて、5グラムの摂取で重篤な副作用が発生し、7グラムの摂取で致死量に至るとされています。
2011年度から5年間に101人が救急搬送され、7人が心肺停止となり、3人が死亡となるほど危険です。
エナジードリンクは安易に入手できるため、ついつい飲んでしまいたくなりますが、飲み過ぎには注意していきましょう。