脳卒中とは、脳の血管に障害が起こり、脳が正常に働かなくなった病気の総称です。脳卒中は主に、脳内の血管が裂けて出血を起こす「脳出血」「くも膜下出血」と、脳の血管が詰まってしまう「脳梗塞」に分けられます。
脳血管障害(脳卒中)の種類
脳出血、くも膜下出血、脳梗塞など
脳出血
脳出血とは、脳内の細い血管が裂けて出血を起こしてしまう病気です。脳出血は、出血が起こった場所によって特徴的な症状が出ますが、どの部位でも比較的よく見られる症状が、頭痛と嘔吐です。
脳出血が起こる原因の9割を占めるのが高血圧です。高血圧によって血管に動脈硬化が生じるようになります。そのことで脆くなってしまっている脳血管に対して、さらに慢性的に血管に圧力がかかり続けることで、血管が破れ脳出血を起こしてしまうのです。
くも膜下出血
脳は外側から、硬膜、くも膜、軟膜という何層かの膜で覆われており、くも膜と軟膜の間を「くも膜下腔」と言います。くも膜下出血とは、脳表面の動脈から出血し、このくも膜下腔に血液が流れ込んだ状態を言います。くも膜下出血の大部分(80-90%)が脳動脈瘤の破裂によるものです。動脈瘤があるだけでは何も症状はありません。しかし、動脈瘤が破裂すると1/3が社会復帰、1/3が後遺症を残す、1/3が死亡と言われるほど重篤な病気となります。
脳動脈瘤がなぜできるのかはまだよくわかっていませんが、血管の弱い部分(分岐部など)にできやすい傾向があります。脳動脈瘤自体には自覚症状はないですが、MRIによる詳細な検査で発見できるため、破裂していない状態で治療が可能であればくも膜下出血の予防につながります。手遅れになる前に見逃さずに早期発見することが何より大事になります。
脳梗塞
脳梗塞とは、脳細胞へ血液を送る血管がつまることで脳細胞が死んでしまう病気です。脳梗塞は詰まる場所や、詰まり方によって大きく「アテローム血栓性脳梗塞」「ラクナ梗塞」「心原性脳塞栓症」に分けられます。
アテローム血栓性脳梗塞
アテローム血栓性の脳梗塞は、ドロドロした粥状のアテロームで動脈が狭くなることが原因で生じます。脳の中でも直径が5ミリから8ミリの太い動脈や頸動脈がつまることによって起こります。太い動脈がつまると、その血管から栄養を受けている脳の範囲が広いため、重症化しやすいのが特徴となっています。
動脈硬化の危険因子である高血圧、高脂血症、糖尿病などを持っている中高年に起こりやすいと言われています。
また、このタイプの脳梗塞は、前触れである「一過性脳虚血発作(TIA)」を生じていることが比較的多いとされています。症状がよくなったから病院は行かなくていいやではなく、まずは病院でしっかりと検査しましょう。前触れで治療できれば、脳梗塞を起こさずに後遺症なく生活することも十分可能です。
ラクナ梗塞
「ラクナ」は、ラテン語で「小さなくぼみ」という意味です。その名の通り、直径15mm以下の小さな脳梗塞のことを表します。脳には、穿通枝(せんつうし)と呼ばれる太い血管から枝分かれして脳の深い部分に酸素や栄養を送り届ける直径100-300μmの細い血管があります。ラクナ梗塞は、この穿通枝の先が詰まって引き起こされます。特に高齢者や高血圧の人に起こりやすい疾患となっています。
心原性脳塞栓症
心原性脳塞栓症は、心房細動により心臓の中の血流のよどみで形成された血栓が脳へ向かう頚動脈や椎骨動脈へと流れ込み、脳の血管まで到達して、血管を閉塞させます。
脳内の太い血管を詰まらせるので、突然発症して意識障害など重篤な神経症状を招き、死に至ることもある、危険性の高い脳梗塞です。
心房細動などの不整脈や心臓弁膜症などの心疾患がある人に起こりやすいです。動悸などを感じている人は一度病院でしっかりと検査して不整脈がないかどうかを確認してもらいましょう。
〜注意すべき症状〜
- 身体の片側(手や足)に力が入らない、うまく歩けない
- 身体の片側(手足や顔)がしびれて、感覚が鈍く触っているか分からない
- 呂律が回らない、言っていることがうまく相手に伝わらない
- ものが二重に見える
- 急に今まで経験したことがない頭痛、次第に強くなる頭痛
- 吐き気や嘔吐がみられる
発作の前触れ
急に手足に力が入らなかったり、手足がしびれる、ものが二重に見える、言葉がうまく出てこないなどの症状が現れることがあります。しかし、すぐに消失したり30分ほどでなくなってしまうと病院を受診しないで様子をみようかなとなってしまいます。これは一過性脳虚血発作(TIA)と言われており、小さな血栓が脳血管に一時的に詰まりますが、血栓がすぐに溶けることで症状が消えてしまうため、症状がなくなります。この一過性脳虚血発作は脳梗塞の前触れと言われており、治療をしなければ3ヶ月以内に10-15%が脳梗塞を引き起こします。治ったからといって放っておくのではなく、なるべく早く受診しましょう。
Q&A
- 若い人でも脳卒中になることがありますか?
- 脳卒中は高齢者がなるものというイメージがありますが、若い方に無縁の病気ではありません。特に最近では30~50代の方の脳卒中が増えています。脳卒中となる最大の原因として、血管の老化による動脈硬化です。近年食生活が欧米化したことにより、高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病が若い人でも多くなったため、若い人でも動脈硬化が進行して脳卒中を起こす人が増加しています。
- 脳卒中のリスクが高いのはどんな人ですか?
- 脳卒中は高齢になるほどリスクが高くなります。その原因として60歳以上になると、老化に伴い動脈が硬くなっていくからです。この動脈硬化を進行させるものとして、高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病があります。そのため、外食が多かったり、味の濃い食事を好む方、間食の多い方、肥満の方、運動嫌いの方などは要注意です。このような生活習慣を送られている方は一度当クリニックへご相談ください。生活習慣を変えることで将来の脳卒中のリスクを減らすことが可能です。
- お酒は飲んではダメなんでしょうか?
- お酒は控え目に飲む分は問題ありません。
適度なアルコールの摂取量の目安
種類 |
量 |
アルコール度数 |
純アルコール量 |
ビール |
中瓶1本 500ml |
5% |
20g |
日本酒 |
1合 180ml |
15% |
22g |
ウイスキー |
ダブル 60ml |
43% |
20g |
焼酎 |
1合 180ml |
35% |
50g |
ワイン |
1杯 120ml |
12% |
12g |
缶チューハイ |
1.5缶 520ml |
5% |
20g |
- タバコは吸ってはダメなんでしょうか?
- タバコは百害あって一利なしです。タバコは高血圧や動脈硬化を促進させ、非喫煙者と比較すると2~3倍リスクが上がります。禁煙するとリスクは下がりますが、非喫煙者のレベルに下がるまで約2年ほどかかります。
- 脳卒中はどんな症状が起こりますか?
脳卒中は、徐々に悪化して症状が出現するのではなく、ある日突然、症状が出現します。症状はダメージを受けた脳の部位によって違いますが、下記に脳卒中の代表的な症状を挙げます。
- 急に顔や手足の片側がしびれたり、手足に力が入らなくなる
- 急に呂律が回らなくなる、言葉がうまく出てこない、相手の話が理解できなくなる
- 急に視界が一部欠けたようになる、うまく見えなくなる
- 急にめまいや歩行がうまくできなくなる
- 急に激しい頭痛に襲われる
このような症状がみられた際は、すぐに当クリニックにご相談ください。
- 高血圧だとなぜリスクが高くなるんでしょうか?
- 生活習慣病の中でも脳卒中の一番のリスクは高血圧です。血圧が正常な人と比較すると、発症の危険度は4~6倍になります。血圧が高くなることで、血管壁にかかる圧力が強くなり、硬く傷つきやすくなります。その結果、動脈硬化を促進させ、脆弱性が増します。
- コレステロール値が高いと脳卒中になりやすいですか?
- コレステロールの中でも種類があり、善玉コレステロール(HDLコレステロール)、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)、中性脂肪に分かれます。脳卒中の危険因子となるのは、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が多くなる、もしくは善玉コレステロール(HDLコレステロール)が少なくなることで動脈硬化を促進させる原因になります。
- 糖尿病は脳卒中を起こしやすいでしょうか?
- 糖尿病の方は、脳卒中のリスクが2~3倍に上がります。糖尿病は糖分が過剰になっている状態です。糖が過剰になると血液は粘度の高いドロドロとした状態になり、血管壁に負担がかかります。脳卒中になってから初めて糖尿病が指摘される方も多いです。食べ過ぎや高脂肪・高カロリーの食事をしている方は是非一度検査をしてみることをお勧めします。
- 脳卒中で飲み込みの障害が起こることもありますか?
- 脳卒中で口や舌、のどの筋肉を動かす神経が麻痺すると、飲食物をうまく飲み込むことができない嚥下障害を引き起こします。急にうまくものが飲み込めなくなったり、唾液でムセてしまう場合は、当クリニックへご相談ください。
- うつ病になったり、性格が変化したりすることがあるでしょうか?
- 脳卒中発症後、気持ちが沈みがちになり、意欲が低下してうつ病になるケースがよくあります(脳卒中後うつ)。脳卒中で脳がダメージを受けたことが原因の場合もありますが、後遺症に対する心理的負担なども原因となります。
また、脳卒中でダメージを受ける部位によっては、人格が替わったり、感情をコントロールできなくなったりする人もいます。以前は温厚な性格の人が怒りやすくなったり、短気な人がすごく温厚になる場合があります。また、急に怒ったり泣いたり、感情が不安定になることもあります(感情失禁)。
- 脳卒中で認知症になることがありますか?
- 認知症と聞くと、アルツハイマー型認知症が上がりますが、脳梗塞を繰り返すことで徐々に認知症が進む脳血管性認知症があります。また、脳卒中による脳損傷が大きかったり、脳のダメージを受けた部位が認知機能にかかわる場所であった場合は、1回脳卒中を起こしただけでも認知症になるケースがあります。